キノコ栽培を見に行く
【自省録】1.3
さっそく、実家から1時間ほど離れている場所で、栽培をしている人に話を聞きに行くことにした。
母は車中で上機嫌にしゃべりだした。
「木下さんという人で、大阪で運送業をしてて実家に帰ってきてキノコを栽培してるのよ」
へー、キノコの栽培かぁどんなところで、どうやってしてるのかな?
と、考えながらその現場に到着した。
そこには、丸顔のいかにもといった大阪弁でしゃべる50台の女性が待っていた。
「こんにちは、ウチは木下といいます。ここでキノコ栽培をしとります。何でも聞いてください」
一見笑顔で、気のよさそうだが、少し癖のあるような感じの女性であった。
その女性は、聞いたことにすらすらと答えてくれた。
元は小学校だったらしく、行政から借りてハウスを建ててつくっていた。
「生育場所を案内しますね。見て行って勉強したってや」
木下さんの後を、母と二人で着いていくと、母はにこにこの笑顔で熱心に木下さんと話し込んでいた。
そこには、遮光性がある暗闇のハウスで、10棟ほどずらりと並んだビニールハウスの中には、木で組まれた棚がずらりと用意してあり、その棚に所狭しと真っ白い筒状のものが並んでいた。
「これが菌床やで。これからキノコが生えてきます。これを業者から買ぉて、作ったキノコもその業者が買い取ってくれる。ええ商売でっせ」
木下さんは、にやりと笑いながら、母に一生懸命売り込んでいた。
母は興奮した様子で矢継ぎ早にいった。
「ぜひ、その業者紹介してください。私も作りたいです。廃校になった場所はまだまだあると聞いてるんで、やります!」
笑みが深まった木下さんは、いいでしょう。紹介しますよ、仲間ができてうれしいです。と母と話していた。
その隣で私は、母の熱気に充てられ、さっそく計算を始めていた。
- 従業員は何人いるのだろうか?
- 1棟いくらかな?
- どこから人をあつめるか?
- 菌床は1個いくらで、キノコはいくらで売れるのかなぁ?
木下さんは、携帯電話を取り出したかと思うと、野村さんという業者の番号を教えてくれた。
なんでも、その野村さんという人が、指導から販売までやってくれる人で全部任せると安心だそうだ。
至れり尽くせりで、安心して投資ができると私は無邪気によろこんだ。
私は、母と二人でボルテージがあがり、冷静な判断ができなくなっていた。
人を信じ頼ることは、時として人のレールに乗った商売と呼ばれ、多くのものを失う第一歩であることを私は知らなかった。